教育実践

話し合い学習 2

1 話し合い学習の教育技術

 「話し合い学習 1」で述べた

 ①2択で問う。

 ②自分の意見をまずノートに書かせる。

 ③「私は」と「私も」を、意見を言う最初に言わせる。

 ④「~ですね。」と言わせる。

 ⑤話し合いの中で出てきた言葉を紙に書き、提示し、それを増やしていく。

 ⑥いけんが同じ子どもを集める。

 ⑦黒板を書かせる。

 ⑧席を立たせる。

などは、様々な先輩方の実践や書籍から学び、自らの経験から有効だと考えた方法の一部です。

 では授業中、話し合い学習を進めるにはどんな方法があるのかということについてお伝えします。

2 自らの授業を分析する

 この後で紹介する方法は、私自身の授業を分析し、自分の指導を、自分なりの言葉で表現したものです。ですので、おそらくググってもどこにも出てきません。

 教育界では、教師の行動や発問をきちんと伝える言葉が極めて少なく、それ故に教育技術が継承・発展できないのではないかと私は考えています。

 例えば、多くの先生は「ゆさぶり発問」とう言葉を聞いたことがあると思います。子どもの認識に対して「ゆさぶりをかける問いかけ」ですよね。これは有名ですが、それ以外に発問をどう類別するかは、ほとんど知りません。

 しかし、教師は、授業中、自らの何らかの判断で、発問したり、指示を出したりします。そこで、その教師の判断を含めて、教師が行った行動をネーミングすることで、教育技術として明確化しようとしたのです。

 その結果、「話し合い学習」という視点から析出(分析して出した)したのが次の教育技術(言葉や態度)です。

3 析出された教育技術

 実際の授業は、「話し合い学習」の経験がない学級に飛び入りで入らせてもらい、算数の授業をし、それを分析しました。

(1) 連結

 これは、話し合い学習の中で、子ども同士の話し合いをつなぐために教師が行う方法で、具体的には、発表した子どもの発言が、他の子どもに理解されていないと教師が判断した場合、発言者に対して「みんな分かっていないようだから、もう一度言ってごらん。」といった指示をすることで、子ども同士の話し合いをつなぐという教師の教育技術をいいます。

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(2) なりきり

 これは、話し合い学習中、教師が子どもになりきって「はい!」といって手を挙げ、子どもが発言するような言葉で、教師が話す方法です。これにより教師が、話し合い学習では指導的立場ではないということを表明することになります。初めてこの方法を使うと、子供たちはびっくりし、笑顔になります。

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(3) 寄り添い

 これは、話し合い学習の中で、自分の本音が出せないでいる子どものそばで、発表するよう促したり、発表に仕方を教えたりする教師の指導方法です。「先生は、あなたの考えは良いと思うんだけど。」という肯定的評価をしながら、全体の場で発表を促すことが重要です。

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(4) 規範はずし

 児童がもっている様々な規範を、とりはらう教師の発言や行動をさします。例えば、「間違うことはいけないことだ」という規範をもっている子どもに、教師が間違ってもよいことをしめすこともその一つです。「授業中は席から立ってはいけない。」と思っている子どもに、離席を促すのもその一つです。

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(5) 教師への依存心の回避

 話し合い学習において。教師が子ども同士の話し合いを促すために、知らないふりをする行為をさします。多くの場合黙って知らないふりをします。この、「沈黙」というのは、教師の教育技術の中で様々な機能をもちます。

 私は、この授業で、7つの沈黙の機能を析出しました。教師は、様々な場面で黙って子どもの様子を見まもります。例えば、問題を子どもがといているときとか、一人の子どもの発表の後に、他の子どもの発表をまつときとか。それらを、機能として意識することで、沈黙が、教師の意図を持った教育技術になります。「沈黙」という客観的な行為ではなく、それを教師の意図まで含めることで、教育技術として、次の授業に意図的に使えるようになるのです。さらに、その前後の子どもの発言や行動から、その沈黙がどのように機能したかを分析することで、その有効性を確認することができます。

 これは、科学における量的な分析では表れないもので、質的分析とよばれるものです。近年、教育界でも、この質的分析が教育研究として認められるようになりつつあります。これについては、別の機会に書きたいと思います。

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(6) とぼけ

 話し合い学習で、子どもの発言の後に、教師がさらなる子ども同士の話し合いを継続させるため、「先生、あなたが言っていることが分からないんだけど」と言ったりして、分かっているのに知らないふりをすることを、「とぼけ」とネーミングしました。この方法は、小学校の教師なら、ほとんどの人がやっていると思うのですが、あえてネーミングすることで、技術として意識的に使うことができるようになります。

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(7) 挑発

 これも話し合い学習で、話し合いを活性化するために、出された意見を反復したり、まとめたりすることで、「〇〇さんが言いたいことは、こういうことだって!」という、教師の行為です。これにより、話し合いを活性化する効果があります。

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(8) 見逃し

 これは、話し合い学習において子どもの発言が間違っていたり、話の筋が違った場合にも、それらを受容した態度をとることで、他の児童の発言を誘発する教育技術で、多くの場合、沈黙します。

イマジン
イマジン

ちなみに、教師は、自らの発問の後、3秒しか待てないといわれています。一度、スマホで録音し、自分が発問した後、どれぐらい沈黙しているか試してみると面白いです。沈黙というのは意識的にしなければ、難しい教育技術です。

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(9) 後押し

 子どもが発言したくても発表できない状態であると判断した時、その子どもの所に行き、意見を聞き、肯定的に評価することで、子どもに自信をもたせ、話し合いに加わらせるという方法です。

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(10) 誘い

 話し合い学習を始めた最初の頃は、どうしても一部のどもたちだけが発表しがちになります。その時、他の子どもたちの発言を促すために、学級全体に対し「〇〇さんが、~と言ってますが。」というように、学級全体に対して発言を促すような方法です。

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(11) 解放

 話し合い学習では、一部の子どもが、追い詰められる場面がでてきます。そのような場合に、追い詰められた子どもの心理的不安をなくさせるために、教師がその児童の発言をフォローしたり、話し合いを別の視点に切り替えたりする方法です。

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4 自らの授業改善に役立てよう。

 ここで紹介した話し合い学習の方法は、自分のある一つの授業を分析したものです。ですので、汎用性があるかどうかは別の話になります。

 ここまで読まれた先生は、ぜひ、自らの授業を分析してみてください。今は、授業の録画等が大変簡単にできる時代です。自らの授業をスマホで撮影したり録音したりして、その様子を見返し、自分の行為が、その後の子どもの発言や行為にどのように機能したかを分析し、次の授業で意識的に使えるようにすることが授業改善につながります。

 「自分の授業を自分で見るなんて恥ずかしい」と言う先生がいますが、やってみれば3回ぐらいで慣れてきます。そして、冷静に見ることができるようになります。できれば2人で見ることをおすすめします。その際、ボイスレコーダーで、見ているときの自らの声を録音しておくと、さらに良いです。様々な発見や言い訳が口をついて出てきます。一緒に見ている人は、「何で〇〇って言ったの?」と、その人の意図を聞いてみてください。それにより、無意識でしていることに気づいたり、意図的にしていることが分かったりします。

 ぜひ、自分の授業を客観的に見て、よいところや改善点をみつけ、次の授業にいかして欲しいと思います。