念願だった<イエナプランスクール認定校>広島県福山市立「常石ともに学園」の視察に2023年6月13日(金)に行くことができました。その様子と、感想などをお伝えします。
「常石ともに学園」HP
1 視察にいたる経緯
「現在の公立小学校は、このままでは立ちゆかなくなる」というのが、校長時代の実感でした。現職中も、職員会議などで様々な話をしたり、学校改善を行ってきたりしてきました。そして、前の記事でお伝えしたように、その改善のモデルとして「イエナプラン」に注目してきました。
そのような中、昨年、日本で初めてイエナプランが認定された公立小学校が誕生しました。
すぐにでも行きたかったのですが、コロナ禍で自粛していました。しかし、令和5年5月より国のコロナ対応がかっわったので、行こうと思いHPをみてみました。
HPに「視察については、こちら をご覧ください。」との案内があったのでそれをクリックして教育委員会に連絡したところ、運良く今年度一番最初の視察日に行くことが出来ることになりました。(ちなみに7月7日は既に一杯でした。)
ちなみに検索サイトで「常石ともに学園 視察」と検索すると、昨年のものもヒットします。
一見、同じような文書ですが、日にちが違います。文書に年(西暦や元号)の記載がないのでお気をつけください。HPからが確実です。
2 「常石ともに学園」到着
徳島から高速で福山SAまで走り、その後、アップダウンのある山の中を20分ぐらい走り、海辺にでたところに「常石ともに学園」はありました。徳島から3時間ぐらいで到着です。少し早く到着したので、近くを車で走ってみました。海辺に沿った道路の横には、大きな造船所等があり、巨大な船も間近に見えました。海岸近くまで山が迫った海辺の町という印象です。
ただ、このような地域は全国的にも児童数の減少が大きな課題です。そのような中、新たな公立小学校をつくったことは日本の教育の在り方を考えるうえで大きな出来事であると考えています。
後の学校説明でもありましたが、実際、この学校は2年前に閉校予定だったようです。さらに、現在も7割の子供たちが校区外から通学しているとのことです。校区外から通わせている保護者の意識や、校区外通学を認めた委員会の考えや、学校をつくるまでの経緯には大変興味があります。それが全国的に児童減少による統廃合を検討している小学校のありかたにもつながるからです。もし、詳しく教えていただける方がいればご連絡いただければ幸いです。(次回視察に行った際に、再度聞こうとは思っています。)
運動場には、午前中の視察に来ている車がありました。もちろん私を含めて、県外ナンバーの車も多くありました。
受付時間になったので、受付をし、玄関を入って直ぐのオープンスペースで、映像による学校紹介を見ながら始まるのを待ちました。
3 学校説明
視察予定の人が全てそろったということで、時間より少し早く学校説明が始まりました。視察者は16名ぐらいでした。市教委から1名来られていました。学校説明は甲斐校長先生が映像や子どもたちの活動の様子を映像を使いながら説明してくださいました。「福山100NEN教育」のもと、イエナプラン教育が行われていることや、実際の活動の様子が動画などで説明されました。
3学年による異年齢集団によるグループ編成で、低学年3グループ、高学年2グループに分けられています。それぞれのグループが一つの教室にいるので、教室には3学年の子供たちがいることになります。先生は、各教室に2名配置されているようです。特別支援学級も2クラスあります。
カリキュラムは、「対話」「遊び」「仕事(ブロックアワー・ワールドオリエンテーション)」「催し」の4つの教育活動で構成されています。このような呼び方も、イエナプラン校としての特徴です。ただ、この学校はいわゆる一条校と言われる国の定めた学習指導要領にのっとった教育をしなければいけない学校です。ですから「仕事」の「ブロックアワー」は教科学習、「ワールドオリエンテーション」は「総合的な学習の時間」、「催し」は、特別活動と考えれば分かりやすいかもしれません。
ワールドオリエンテーションでは、低学年の「土」をテーマとした活動で、泥団子を作った実践や、高学年の「常石パーク」をつくる実践、「常石TV」の実践が紹介されました。動画から子どもたちのプレゼン力も伝わってきました。
余談ですが、タブレットが自由に使える今、「番組作りの実践」はおすすめです。出力型授業の一つとして、まずは「授業で習ったことを他の人に説明する動画づくり」などが、取りかかりやすいと思います。
児童数数140名で教職員は3名の育休職員を含め26名です。(詳しくは学校要覧をご覧ください。学校要覧は、黒塗りなしで、全てHPに載っています。ちなみに、現在、県からの加配は3名だそうです。)
その他、保護者や地域とのつながりを大切にした活動も紹介されました。PTAではなく、サポーターというボランティア制などは、現在、全国的にも話題になっていますが、今後の学校のあり方の一つとしてめざされているコミュニティースクールのあり方を考えていくモデルになると思います。
4 授業見学
タイトルは授業見学でしたが、実際は、教室には入らず、廊下から見るだけで、施設見学といった内容でした。見学は2つのグループに分かれて、少人数で行われました。写真撮影は、子どもがはっきり映らないような配慮をすればかまわないということでした。少人数で直接校長先生が説明してくださったので、その場で思いついたり感じたりしたことについての質問もできました。
見学した5校時は、ブロックアワー(いわゆる教科の学習)でした。子供たちは、様々な場所で、それぞれ学習していました。教室と廊下の間が透明の大きなガラスなので、中の様子も見ることができました。
教室内では、壁に映されたプロジェクターの映像の周りに集まって、先生を含めて話をしている様子が見られました。廊下でタブレットで学習している子どもや市販の漢字ドリルをしている子どももいました。授業の具体的な学習内容が知りたかったのですが、授業の邪魔をしないように教室には入らなかったので分かりませんでした。
具体的なカリキュラムが知りたかったので、校長先生にお聞きすると、基本的には教科書単元で進めているということでした。廊下には、教科書の単元に対応したプリントの棚がありました。これも自由に使えるようにしているようでした。
5 質疑・応答
見学が終わり、オープンスペースに戻り、質疑応答が始まりました。具体例を入れながら分かりやすく説明してくださいましたが、簡単に概要のみ、お知らせします。(聞き取り等の間違いがあるかもしれません。ご容赦ください。)
Q. 自由進度型学習の個人差にどう対応しているか?
A. 自由にやっていると言っても、一斉学習も結構ある。子どもの状況を見ながらやっている。単元によっては、集まる方が多かったりする。学力確認は単元末にはチェックプリント、学期末にはテストをしている。特別なことをしているつもりはない。常石の方法は子どもを取り出して指導しやすいとは感じている。
Q. 人事は?
A. 今年度は県から3人加配。来年度は分からない。
Q. 研修のあり方は?
A. イエナプラン教育を進めているのではない。子ども一人ひとりの学びを大事にするということで他の学校と同じで、特別なことはしていない。
Q. 市教委としてイエナ校という認識は?
A. そこを目的としているのではない。福山市では、子どもの学ぶ姿から、学年や教科を飛び越えて学べるような取組は、この学校が始まる前からしてきた。それがこの学校の開校につながった。この学校ではそれがやりやすい場になっていると感じている。
Q. 福山市や県下にモデル校として広める計画は?
A. 本来は、常石小学校は閉校予定だったが、地域の方々の強い願いや地元の企業の支援で開校した。県や市だけで作り上げたものではないので、これを他の地域に広げる予定はない。
Q. 中学校との連携は?
A. 常石ともに学園の卒業生は、中学校で地域の義務教育学校の想青(そうせい)学園にいく。そこの学校も2年前に開校し、そのカリキュラムも一緒につくっているし、今度も授業研究会をする予定である。連携というより、一緒に創っているという感じである。ただ、7割の児童が校区外から来ているので、中学校で想青学園に行くかどうかは分からないが、子どもの学びを大切にすることが中学校につながると考えている。
想青(そうせい)学園HP
http://www.edu.city.fukuyama.hiroshima.jp/gimu-sosei/gakuen-top.html
Q. 特別支援学級の交流はどのようにしているか?
A. 公立小なので、一般の学校と同じように子どもの状況に応じて行っている。
Q. 教員のイエナプラン教育の研修はどのようにしているか?
A. イエナプランの20の原則の内容は、一般の学校が大事にしてきたことと同じであると思っている。イエナプランの研修というより、子どもの学びをどう見るか、どう生かすか、どう学びをつくっていくかという研修を行っている。これが、理念の共有になっている。
Q. 家庭学習・宿題は?
A. 必要な宿題は出す。子どもたちの状況に応じて。
Q. 児童会活動やクラブ活動・委員会活動は?
A. 委員会や児童会はある。(全校ミーティングの例「廊下を走らないようにするには」)クラブもある。
Q. ワールドオリエンテーションのテーマはどのように決められているのか?
A. 例えば「土」というテーマは3年目だが、子どもたちの様子を見ながら、中身は変えていく。「土」は「磨く」というテーマに発展している。
6 視察を終えて
最も印象に残ったのは、校長先生も委員会の担当者も「イエナプラン教育を目指しているわけではなく、福山100NEN教育の計画に基づいて教育を行っており、子どもの様子をしっかりとみて教育を進めるという意味で普通の学校とかわらない」という意識をもっているということです。
1時間あまりの視察でしたが、廊下をはじめ好きな場所で学んだり、教室で机に座った一斉学習が行われていなかったり、異学年グループによる学級編成などは、いわゆる「普通の学校」ではありません。しかし、随所にそのような言葉や説明が聞かれ、特別な学校ではないことを伝えようという意識を感じました。
これにはいろいろな大人の事情もあるのだろうと思います。(本当にご苦労さまです。(笑))
しかし、私のような、現行の小学校のあり方に危機感をもっている人間にとっては、「普通の学校」ではなく、イエナプラン教育の小学校だと感じることができました。ですから、「一条校でも、イエナプラン教育を取り入れることで、こんな取り組みができるんだ」ということを感じるために、ぜひ、視察に行き、授業や子どもの様子を見て、そのことを感じてもらいたいと思います。
私は、今後とも、この「常石ともに学園」を追いかけていきたいと思っています。