教育学

イエナプラン

 イエナプランって聞いたことありますか?

 2月4日(土)、徳島市佐古で「日本イエナプラン養育協会 公式 徳島学習会」が開かれ、初めて参加しました。会場は、日頃、放課後デイサービスに利用されている場所で、20名ほどの参加者がいました。コロナ禍で、2年近く人混みを避けてきたので、久々に見ず知らずの人ばかりの会に参加して、新たな世界を垣間見た気がしました。

 イエナプランは、担任をしている時から興味はありました。職員室でも先生方に話をしましたが、多くの先生方にとっても、大学の講義で聴いたことがあるというぐらいの認識でした。

 改めて意識したのは校長になり現在広島県教育長の平川理恵氏の著書『クリエイティブな学校を創ろう』(教育開発研究所 2018)を読んだことでした。平川氏はそのまえがきの中で

まるでタイムマシンに乗って未来像を見せてくれるようなビデオがある。

「明日の学校に向かって  オランダ イエナプラン教育に学ぶ」(グローバル教育情報センター)(中略)

3年前に見たこのビデオに衝撃を受けた。そしてすぐさま自腹でオランダに飛び、自分でレンタカーを運転し数校の学校見学を行い、これが日本で実現できるとしたらどんな感じだろうと思いを馳せた。(p.5)

 すごい行動力です。リクルートから民間人中学校長になり、様々な学校改革に取組み、中教審の委員としても活躍した方で、その後、広島県の教育長となりました。この著作は、これから来るであろう学校の未来の姿が書かれています。

 さて、ここでは、次のいくつかの側面から、イエナプランについて考えていきたいと思います。

1 なぜイエナプランに注目しているのか

 徳島学習会の入り口に「イエナストーリーズ ほんの木フリーペーパー 2022 Vol.1」が置いてありました。一面の見出しは、「リヒテルズさんに聞く「個別最適で協働的な学び」本物から学ぶイエナプラン」というものです。そして、そのリード文は

「個別最適で協働的な学び。いま日本の公教育が、これまでと大きく異なる方向に舵を切ろうとしています。」

という文章で始まります。「大きく異なる方向」という表現に違和感はありますが、確かに今、学校教育は「令和の日本型学校教育」と称した学校教育がめざされ、キーワードとして「個別最適な学び」と「協働的な学び」があげられています。

 学校現場では、さまざまな理由で、この2つを大胆に実施することは難しいという意識があり、学級担任が、これまでの一斉授業で教科書を教える際に、机間巡視で個別に支援することを「個別最適な学び」と考え、グループで考えさせたりすることを「協働的な学び」ととらえ、これまでと同様の授業が行われているというのが現状ではないでしょうか。

 しかし、中教審答申の言う「令和の日本型学校教育」は、学習指導要領の「個に応じた指導」を学習者の側から整理し、「個別最適な学び」とよび、さらにそれを「指導の個別化」と「学習の個性化」という概念で説明しており、さらに、その指導においてICTの活用の必要性をあげています。単なる机間巡視による個別指導や、グループ活動による協働とは違います。

「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~(答申)(中教審第228号) 【令和3年4月22日更新】:文部科学省

 その点から見れば、イエナプランははっきりしています。例えば、イエナプランでは、自分で、学習内容を決めて一週間の時間割をたてるブロックアワーという枠組みと、ワールドオリエンテーションという、いわゆる総合学習の枠組みがあります。ブロックアワーは、自分で学習内容や時間割を決めるという意味でも個に応じた学習です。一方で、ワールドオリエンテーションは、異学年グループによる協働学習です。さらに、カリキュラム的にも、この枠組みは、教科と総合という、現行の学校カリキュラムと対応させ、その違いを検討することができて面白いと思います。

 その他、サークルになって、みんなで話し合う時間もあります。(対話と呼ばれています)これなども、「主体的・対話的」な方法として、参考にする価値はありそうです。

 つまり、今、「個別最適な学び」「協働的な学び」が求められ、「主体的・対話的で深い学び」をめざしている日本の公立小学校と比べながらイエナプランを学ぶことは、様々なヒントがえられるのではないかと思うのです。

2 イエナプランの教育学的位置づけ

 では、そもそもイエナプランとは、どのような教育なのでしょう。

 イエナはドイツの都市の名前です。そこにあったイエナ大学は、世界的に知られた教育機関で、1924年~1949年まで附属学校で行われた教育計画をイエナ・プランと言うそうです。理論的指導者は、ペーターセン(Petersen、P)です。

イエナプランは、第一次大戦後の、世界的な新教育運動の一つとして広がりました。それまでの教育との違いは、年齢別学年学級制の廃止とそれに代わる基幹集団の編成で、教育課程は、①基礎学習課程(計算・言語など)②自然科学系・文化系の対象を学習する集団活動③造形学習④必要に応じて行われる練習・選択課程⑤宗教、行事、自由行動・円座形式の集会などの共同形式⑥体育、その他。です。(参考:『新教育学大辞典』(第一法規))

 日本イエナプラン教育協会 (japanjenaplan.org)によると、日本では、学年は1~3学年、4~6学年の異学年によるファミリー・グループを根幹グループとし、4つの基本活動として「対話・遊び・仕事・催し」がリズミックに循環するように企画されているそうです。

3イエナプランの日本での現状

 日本のイエナプランの現状についてはイエナプラン教育協会HPに詳しく解説されているので興味が沸いた方は、ぜひチェックしてみてください。

 読みやすい本としては、リヒテルズ直子訳の『イエナプランともに生きることを学ぶ学校』(Freek Velthausz, Hubert  Winters 著 ほんの木)というちょっと分厚い本や、『オランダの教育-多様性が一人ひとりの子どもを育てる-』(平凡社)があります。

 リヒテルズ直子氏は、日本イエナプラン教育協会特別顧問です。イエナプランの日本での代表人物と思っていましたが、先日(2023/1/17)Project MINT主催のオンラインのトークイベントに出演されていたので、参加しました。その中でリヒテルズ直子氏は「自分自身は市民形成に関心があり、本当に民主的な社会を創るにはどうすればいいか。そのために教育は何ができるのか?公教育は何のためにあるのか?を考えてきた。」とおっしゃっていました。そして、自身の経歴とともにオランダの教育についても話されていました。それを聞きながら、今川がイエナプランに惹かれる理由は、民主主義を守るための市民教育にあるのかも知れないと思っているところです。さらに、情報教育においても「デジタル・シチズンシップ」という言葉が多く出てくるようになりました。まさに今の学校教育は民主主義国家における市民教育の方向性に向かっていると感じているところです。翻って言えば、今の学校教育は、民主主義国家の教育のあり方なのかということになるのかもしれません。

 さて、現在、日本には、イエナプラン認定校が2校あります。その1校は、広島県福山市立の小学校で、本年度(令和4年度)開校した「常石ともに学園」です。

(1)広島県福山市立「常石ともに学園」

福山市立常石ともに学園 | ともに学び ともに生きる

 今年度(2022年)に広島県福山市に開校した公立小学校です。ついにイエナプランの学校が公立としてできたのかと驚きました。と同時に、平川教育長の力を感じずにはいられません。先述した著書の中でも平川氏は次のように書いています。

 もし私が300人以下の小規模校の校長だったら・・・とり組んでみたいのは、オランダのイエナプランだ。(p.178)

「さすがだなあ。」という感じです。現在、公開授業等はできない状況のようですが、ぜひ見学にいきたいと思っています。皆さんもいかがでしょうか?

(2)長野県佐久穂町 学校法人茂来学園「大日向小・中学校」

学校法人 茂来学園 大日向小学校・大日向中学校 しなのイエナプランスクール
大日向小学校・大日向中学校は、「誰もが、豊かに、そして幸せに生きることのできる世界をつくる。」という建学の精神のもと、2019年4月に長野県南佐久郡佐久穂町に開校した、日本で初めてのイエナプランスクール認定校です。

 日本で最初の認定校で、私立です。詳しくはHPをご確認ください。

 私自身は、このイエナプランの日本初の学校が、長野にあることに感慨をおぼえます。それは、「信州教育」に響き合うものを感じるからです。「信州教育」の理論的指導者としては、上田薫氏がいます。また、長野県で有名な小学校に伊那小学校があります。総合的な学習が始まる前から、児童中心の教育が行われ、私は、この考え方に影響を受けました。若い先生はあまりぴんとこないかも知れませんが、学校でヤギを飼い、そこから様々なことを学ぶ教育は私にとって衝撃でした。実際に、研究会にも参加したことがあります。

4 現在の学校教育でイエナプランから学べること

 外国語が指導内容に入ってきたり、プログラミング教育をはじめとした〇〇教育と名がついた教育が次々と求められ、一方で働き方改革のための時間管理等が求められ、休職する教職員のかわりの人材も不足するような現実に、公立小学校は、このままではもたないと感じていました。今思えば、それは自分が学校そのものを大胆に変える力がなかったからだろうと反省しています。実際、教育課程は学校長の権限です。様々な法律的制限はありますが、学校ができることはたくさんあります。校長時代、それを職員や保護者に説明し、リードできなかっただけの話かも知れません。

 例えば、総合的な学習の教育課程は学校で組むことができます。教科書の制限もありません。自分が担任時代は、「ゆとりの時間」などを使って様々な取組をしましたし、校長時代も、学年主任にお願いして、毎年同じことをしている総合的な学習の時間を見直してもらうように言い、実際に大きく変更したこともあります。しかし、学校全体の取組にできなかったという反省があります。

イエナプランをそのまま行うためには研究開発学校の指定を受けないとできないと思います。しかし、例えば、3学年から5学年を学年の枠を外し、異学年グループでテーマを決めて学習するというのは可能です。(時間割の調整などの難しさはありますが。)

 実際、特別活動では異学年グループで活動する学校もありますし、私も小規模校では実践してきた経験があります。また、へき地の少人数の学校では学年の枠組みを超えたカリキュラムが組まれたり、複式学級に至っては、まさに異学年が教え合う授業も行われたりしています。

 また、最近はブロックアワーでの学習のような「自由進度学習」という方法をとる学校もあるようです。

 学校の実態に合わせて、イエナプランに学ぶことは可能だと思います。

5 今後のイエナプランについて

 「イエナストーリーズ ほんの木フリーペーパー 2022 Vol.1」のはじめの文にあったように、確かにこれからの学校は、イエナプラン風?な学校がめざされるかも知れません。ただそのためには、まず校長の決断が必要です。

 もし、そんなことをやってみようと思う先生がいたら応援に参ります。お声かけください。

 ちなみに、名古屋市の山吹小学校の取組は、イエナプランを直接参考にしているようです。興味がある方はググってみてください。

<参考ユーチューブURL>

オランダ・イエナプラン教育DVD「明日の学校に向かって」リヒテルズ直子 JENA PLAN

しなのイエナプランスクール・大日向小学校紹介 10min