徳島県には「徳島県小学校教育研究会」(以下「小教研」と略します)という組織があります。
この組織は、徳島県の小学校教員のほとんどが加入している研究組織です。他の都道府県には、このような組織はないと聞かされてきたのですが、真偽のほどは分かりません。
今回は、この組織について、ご紹介します。もし、他の都道府県で、同じような仕組みの全県的な組織があれば、ぜひお教えいただければうれしく思います。
1 小教研って何?
ほぼ全ての徳島県の小学校教員が、年会費を納め、徳島県教育会からの助成もうけて運営している自主的研究組織です。自主的研究組織と言っても、この組織は、教育委員会や県下の小学校の様々な活動にかかわっているため、実質的にはこの組織がなければ、様々な教育活動や研修ができません。ですから、自主的組織とはいえ、公的性質をもつ組織と言えます。
目的は、「小学校の各教科・特別の教科道徳・特別活動・総合的な学習の時間・外国語活動等に関する諸課題を研究し、本県小学校教育の向上に役立てること」(会則2条)です。
歴史的には、設立当時の小学校の先生方で作っていた自主的研究会が集まり、それぞれの部会ができています。
例えば、現在の「情報教育部会」は、古くは昭和13年の「徳島県ラジオ教育研究会」という組織から始まります。その後、テレビ放送が始まり、戦後すぐの昭和22年に「徳島県学校放送研究会」へと引き継がれ、現在は「徳島県放送教育研究協議会」へとつながります。それを母体として、小教研発足時に「視聴覚教育部会」としてスタートし、現在の「情報教育部会」へと変遷していきます。(昭和27年に教育委員会ができる前から、先生方の自主的研究組織ができていたという歴史に驚きます。)
2 会員は?
徳島県の小学校教員のほぼ全ての先生が加入しています。令和4年度4月現在で、およそ2,400名です。(令和4年度 徳島県小学校教育研究会要覧より)
3 どんな組織で、どんな活動をしてるの?
次の図のような組織になっています。
(令和4年度 徳島県小学校教育研究会要覧より)
さらに、詳しく言えば、各部会のうち、国語~外国語まではA分野、養護・情報教育・生徒指導・食育部会はB分野と分けられています。
そして、A分野の研究の成果等を発表する研究大会が、2年に1回行われ、一般的に「統一大会」と呼ばれています。研究大会のある年を「表年(おもてどし)」ない年を「裏年(うらどし)」などと呼ぶ人もいます。「統一大会」は、研究大会を行う小学校(以下「会場校」)以外の学校は臨時休校として、全小学校教員が、県下各地で行われる会場校へ出張し、研究授業や授業研究会、講演会などに参加し、研修します。(コロナ禍となったこの2~3年は、中止になったり、オンラインやハイブリッドの研修会になったりしています。)
「統一大会」は、2,400人余りが、14部会に分かれて研修する(校長・教頭・B分野は開催しない)ので、「会場校」は大変です。1校に200人近い先生方が授業を観にくることになります。(ナビがない時代は、会場までの道案内のために、保護者等に協力をお願いし、道案内のプラカードをもって立ってもらったり、会場における湯茶の接待までしてもらっていたりしていたこともあります。)
「会場校」では、公開授業が行われます。学校の規模や状況により公開授業数は違いますが、授業する先生方はもちろん、全職員が数年前から、その教科等の研究に取り組み、当日を迎えるわけです。
B分野も2年に1回、講演会や情報交換会などの研修を行います。「情報教育部会」だけは、半日で研究授業や授業研究会を行っています。(校長・教頭研修部は、別日に校長会・教頭会での研修を行っています。)
県小教研の各部会には、会長をはじめとして、事務局が置かれ、その事務局員は、県下各地から集められた、その教科等のエキスパートとして、研究の指導助言や、研究大会の運営、部会運営を行います。それぞれの部会の会長が小教研の部会長、事務局長が小教研幹事となります。
郡市理事会は、各郡市における小学校教育研究会の、小教研担当の校長先生方によって組織されます。各郡市には、組織構成や規模は違いますが、郡市の小学校教育研究会があります。その会長や研修係校長が小教研の郡市理事となります。
これら全ての先生が小教研の運営委員となります。この運営委員による全体会である運営委員会で小教研会長が選出され、その会長のもと、事務局が作られます。また運営委員の中から、ローテーションで常任委員が選出され、常任委員会として運営委員会を支えるという組織になっています。
4 それぞれの部会はどんな活動をしているの?
各部会によって、様々な活動が行われています。また、部会の組織や人数なども違います。
それぞれの部会が、研究主題を作成し、その研究主題のもと、研修や活動をします。それらは、年度末に成果刊行物としてとりまとめられ、各学校に送られます。
活動内容も各部会で決められているため、様々ですが、中心となるのはやはり各部会の研究主題解明のための授業研究会や研修の実施です。さらには、前述したそれぞれの全国組織の研究会の下部組織としての活動があったり、県下の小学校全てを対象にした副読本・テスト・ワーク作成なども行ったりしています。各郡市の部会では、夏休み中に郡市単位で夏期研修会をしたり、様々なコンクールや競技大会を開催したりしているところもあります。
5 研究会の意義は?
県下全ての先生方が参加している組織ですので、この研究会の意義はたくさんあります。個人的には大きくは次の3つだと考えています。
(1)小学校教員の資質・能力の向上
やはり何と言っても、それぞれの部会で研修ができるため、専門的な知識や技術などの教員の資質・能力の向上です。特に「会場校」に勤務する先生方は、そのための研修等も多くなるため、様々な専門的知識や技術を身につけることができます。
(2)徳島県の教育の質の向上
教員の資質・能力が向上することにより、当然ですが子供たちの力は伸び、結果的に徳島県の教育の質は向上します。
(3)徳島県の小学校の先生方の交流
学校内や近隣の学校だけでなく、小教研の部会や研究会を通して知り合った先生方や指導者との交流が生まれることにより、情報交換はもちろん、研究以外の交流につながる場合があります。これにより、徳島県の教育についての情報交換ができ、人のつながりも多くなります。
6 研究会の課題は?
一方、全県的な組織であるため、意義や効果が高い反面、様々な課題もあります。個人的には次の3つが大きな課題だと考えます。
(1)学校の仕事以外の組織の事務的な仕事等が割り当てられる。
学校の仕事以外に、各郡市や県全体の研究会にかかわる事務的仕事が多くなります。これらは自らの組織であるため、自分達でしなければならず、仕事量が多くなります。例えば、研修会を企画・運営するためには、会場を押さえたり、研修内容を決めたり、参加募集や集計など多くの作業が必要です。これらも教師がすることになるので、特に、事務局になった先生方は、学校の仕事ではない仕事が多くなります。
(2)校長の学校運営に支障が出る場合がある。
小教研の「会場校」は、県下を4つのグループに分け、その中で数年先までを見越したローテーションで決められています。徳島県の人事異動では、多くの場合学校長は、2~3年で異動します。当然、校長で赴任した学校が「会場校」になる場合があります。このような場合、校長がしたくない研究大会もしなければならない訳です。ただ、逆に研究大会が指定されていることを利用して学校運営をしたり、研究にかかわったりすることも可能ですので、それぞれの校長先生の考え方次第かもしれません。
(3)会費が個人負担となっている。
最初に書いたように、この組織のほとんどの経費は会費で成り立っています。年度の初めに、学校長を通して説明され、5月の給与から天引きされている場合が多いので、会費を払っていると自覚していない職員もいます。(ちなみに令和4年度は年額2,400円、学校会費として1校につき年額2,000円を集金しています。)これらの会費は、各郡市や部会に割り振られ、それぞれの活動に使われますが、全体としては、年2回の会報や教育講演会への参加、統一大会や各部会の研究大会への参加費は、全て無料となります。
ただ、この組織は、実質的に様々な徳島県の教育の活動を支えているといっても過言ではありません。教員の働き方改革における教員の待遇改善の一環あるいは資質能力の向上のために、公費でまかなえるようにしていくことが必要ではないでしょうか。
7 おわりに
長い歴史をもつ小教研ですが、「働き方改革」の問題を踏まえ、昨年度大きな改革を決定しました。例えば「生徒指導部会」の廃止や、「生活科」と「総合部会」の統合などです。さらに「統一大会」もできるだけ簡素化する方向です。(ナビがある時代なので道案内はやめる等。(笑))
この組織は、その成立の歴史からみても各部会の主体性が重視されています。そして、それぞれの部会が、全国的な民間研究団体とつながっていることもあり、それらの制約や方法が小教研の規程や方法より優先する場合があります。さらに、会費分配以外の活動資金をもつ部会もあるため、それらの説明が不十分だという指摘もあります。
ただ、全国的にも類を見ない?と言われている全県的な組織です。各部会が本質的な目的を十分に認識し、今後も徳島県の先生方のために、そして子供たちのために、有効に機能してほしいと思います。
<参考・引用>
徳島県小学校教育研究会HP